
デザイナーを目指す上で、最初の壁になるのは絵が描けないというものがあると思います。
実際、デザイナーと聞くと大抵の人は絵が上手いんだねと言われることでしょう。
ですが、心配しなくても大丈夫です。
意外なことに絵が描けないデザイナーはかなりの数いたりするのです。
確かに絵が上手いと得をする場面は多々あります。
美しい絵が描けるだけで、人の心を打つことができます。
何より、ちょっとしたイラストが描けるだけで、表現の幅が広がってきます。
スキルとして持っていればプラスになるのは間違いないでしょう。
それでも一流の現場で活躍しているデザイナーの中には、絵がまったく描けない人がいます。
では絵が描けなくても一流の現場で活躍している人は何が優れているのか。
そこには様々な要素がありますが、ひとつ確実なことは「造形する力」を身につけていると言う点でしょう。
造形とはある意図を形として表すことを意味します。
実はこの形という要素がとても大切なのです。
今回はこの造形についてお話しようと思います。
今回はその造形力を具体的な例を用いてテクニックを紹介していきます。
身に着けるコツなども紹介していきます。
デザイナーに必須な造形力
造形と聞くと少し、難しい印象を抱くかもしれませんが、言いたいことは実にシンプルです。
それは、伝えたい情報をいかに形にして届けるかです。
デザイナーは情報伝達を行うための視覚的なビジュアルを設計するのが仕事です。
そのためにレイアウトや文字、色の検証などを行い絵を作り上げていきます。
造形力とはまさにこの絵作りの力と言えるでしょう。

確かに、誰もが感動するような絵が描ければ、それで十分と言えます。
皆が思い浮かべるような西洋絵画だって、元を正せば視覚的に情報を伝えるために発達してきた文化です。
絵を描くとは元来の意味も含めて、情報伝達と言う性質において最も強いスキルと言えるでしょう。
ですが、それはあくまで絵筆を使って描くこと限定のお話です。
何も絵筆で描くことだけが視覚的な情報伝達の手法ではありません。
これから紹介する造形の手法はコツさえ身につけてしまえば、決して難しいことではありません。
少なくとも何年も修行してようやく身に付く絵画手法よりよっぽど手早く身につくでしょう。
それでは具体的にこれから造形の手法を紹介していきます。
モチーフの抽象化(デフォルメ)
デザイナーの行う造形とは、意図することを的確に伝えることです。
可愛い動物をイメージで伝えたいとなって、単純に写実的な絵を描くことがデザイナーの仕事ではありません。
このオーダーに対して造形力が高い人は様々な手法を考えていくことができます。
では具体的にどうのような手法を行っていくのか。
一番オーソドックスな回答は抽象化(デフォルメ)による造形です。
抽象化とはモチーフとなる対象から大事な部分を抜き出して、それ以外を省略していくことです。
これをデフォルメと呼んだりもします。
この手法によってより大事な部分が強調されていきます。
つまり、抽象化するポイントを明確に絞ることで、受け手に主題をはっきりと伝えることができるわけです。
わかりやすい例を紹介しましょう。
引用 第1回ユーモア広告大賞受賞作品(1987年度)
こちらは薄毛対策の広告です。
モチーフとなっているものは日本人なら誰でもわかる鉄腕アトムです。
鉄腕アトムの特徴的なM字の生え際にポイントを絞って抽象化したビジュアルをうまく、薄毛の広告として落とし込まれています。
これが抽象化です。
こちらのビジュアルはスキルとしては決して難しいことはしていませんよね?
Illustratorで5分もあれば、あっという間に作れてしまいます。
それでも情報伝達のビジュアルとして分かりやすく伝わるのは、伝えたいポイントをしっかりと捉えて、抽象化を行っているからに他なりません。
記号化
記号化も有効な造形の手段です。
デザインにおける記号化とは、言語や感情などを目に見える形として落とし込んだものを言います。
つまり見ただけで情報を連想する形です。
わかりやすい例としてはハートです。
あれを見ると大抵の人は愛情などを想像しますよね?
こういった、情報を即座に伝える造形を記号と言います。
引用 渋谷ロフト2012リニューアルビジュアル https://www.loft.co.jp/topics/shibuya-renewal/
こちらのビジュアルは吹き出しという記号をベースに作られています。
色とりどりの吹き出しは様々な人を擬人化したイメージなのでしょう。
それが重なり合いながら、寄り集まっていることで、ダイバーシティー(多様性)な場を表現しているのだと思います。
ロフト自体、いろいろなものを取り揃えていますし、とても良いビジュアル設計ではないでしょうか。
こちらも要素としては難しいことは何もしていません。
記号なんてそれこそ、誰でも描くことができます。
それでもこれだけ、賑やかで分かりやすいビジュアルを作ることができるのです。
タイポグラフィー
文字からも造形をつくっていくことができます。
文字自体が言ってしまえばひとつの共通認識をもった存在であり、それ自体に説得力があります。
こういった文字の造形をタイポグラフィーと言います。
作字なんて言い方もします。
SNSで作字を投稿されている方もいらっしゃるので参考にしてみても良いかもしれません。
11.11#ポッキーの日 #ポッキープリッツの日 pic.twitter.com/s2kKDj3P0w
— にお (@nioin_design) November 11, 2020
デジタルからアナログまで文字や記号のデザインをやってる者です。
よかったらリツイートで拡散してください。全員フォロバしますのでフォローお願いします!! pic.twitter.com/5OQqym56Bm
— ゆうた|PTV_1024.HEIC (@yuta_ptv) August 1, 2020
このタイポグラフィーもデザイナーにはなくてはならない造形スキルとなります。
引用 https://www.wwdjapan.com/articles/686044
例えばこちらのタイポグラフィーはそれぞれネタの文字をモチーフに寿司を描いています。
シンプルでありながら、とてもよく文字を生かしています。
まさしくタイポグラフィーの好例といえるでしょう。
幾何学
幾何学的に造形していくことは最もポピュラーな造形スキルです。
幾何学でつくられることによりシンプルで均整のとれたビジュアルをつくりだすことができます。
例えばロゴマークなどではこの手法をよく取り入れられています。
引用 http://www.freelogovectors.net/wp-content/uploads/2012/03/tepco-logo.jpg
完全に円のみつくられたこちらのロゴは実に安定感と力強さをその身に宿しています。
シンプル故に象徴性や安心感を生み出していきたい時に、こういった幾何学をたよりにモチーフを造形していくことはまさしく正攻法の一つと言えるでしょう。
余談ですが、この手法の歴史は古く、1910年代のロシア・アヴァンギャルドと呼ばれる美術様式から始まりました。
当時のロシアは識字率が低く、だからこそシンプルで分かりやすい幾何学デザインが流行したわけです。
写真
意外かもしれませんが、写真というのも立派な造形手法です。
むしろ、一番の正攻法と言っても良いでしょう。
なぜなら、情報伝達において写真は何よりも分かりやすいからです。
デザインにおいてはしばしば写真をシズルなんて呼んだりします。
シズルとは魅力を最大限伝えるためのビジュアルに対して使う言葉ですが、そういう意味でも写真を使いこなすことこそ、造形力を身に着ける一番の近道かもしれません。
以下の記事で詳しくシズルについて解説しているのでよかったらぜひ一読ください。
デザインにおいて意図のないものはありません。 ちょっとしたあしらい、色、レイアウト、そして写真もです。 食品系のデザインにおいて商品写真はシズルと呼ばれることがあります。 このシズルとは端的に説明すると[…]
ジュワ~ この擬音語から何を思い浮かべるでしょう。なんだかとても美味しそうな響きに聞こえませんか?このような美味しそうな響きを視覚的に表現したものを広告業界ではシズルと言います。 シズルは広告、特に食品系[…]
造形力の身につけ方
このように造形力は知識とコツさえ身に着けてしまえば、決して習得できないものではありません。
もちろん会得していくためには訓練が必要です。
どの手法もやり方が違うだけで根本的には同じことをしています。
それは、対象の魅力を分析するということです。
例えば、アイスクリームで考えてみましょう。
アイスクリームの特性を上げていきます
- 冷たい
- 甘い
- とぐろを巻いたような形状
- 黄色いコーンと白いクリーム
- etc
このように書き出していくと、生かせる素材が見つかってきます。
例えば、黄色いコーンと白いクリームでまず、色を抽出できます。
キーカラーを黄色と白に、コントラストを生かしたものが作れそうですね。
他にもとぐろを巻いたような形状。
あれが出来上がる瞬間なんて、とても美味しそうですよね。
そこにフォーカスを当てて、写真の構図を決めていくなんてこともできるでしょう。
つまりこのように、対象を分析していくことで造形するヒントを得ることができるわけです。
具体的な練習方法
ひとつ具体的な練習方法を紹介します。
これは僕が美術予備校に通っていた時に教わった手法です。
必要なものは定規やコンパス、鉛筆と紙だけです。
方眼紙などでもいいかもしれません。
やることはただひとつ。
ただ毎日、ひとつモチーフを想定し、円と曲線のみでそれを描いてみるというものです。
例えば猫をモチーフとしたとしましょう。
次に猫を観察します。
耳の形は尖っているのか丸いのか。目や鼻の形はどうか。
明確に守るのは図形のみで猫を描くということです。
最初は抽象化に時間がかかるかもしれません。
しかし、やっていくことで確実に造形センスが高まっていくことでしょう。
最後に描いたものを友人でも親でもネットでも構わないので、誰かに見てもらうのがいいでしょう。
見てくれた人が猫と認識してくれれば完成です。
時間があればそれを清書としてIllustratorなどでつくってみてもいいかもしれません。
Illustratorの習熟にもつながるので一石二鳥です。
最後に僕がこのルールで実際につくってみた猫を置いておきます。
ぜひ、試してみてください。